大海の会は、昨年12月18日にNPO法人を取得し、第1回通常総会を開催するに当たり、記念講演を企画いたしました。講演は、中国帰国者の研究に取り組んでおられる大連外国語大学 崔学森教授(史学博士)にお願い致しました。
講演内容は、「中国残留孤児はどのようにして生まれたのか?」と題して、中国語でお話して頂きました。
会場には、信濃毎日新聞社など会員以外の参加者があり、満席となりました。司会は、安西美稀乃監事が行いました。
崔学森教授のプロフィールは、次のとおりです。
1974年生まれ、遼寧義県人、主な研究分野は近現代の中日関係史、現代の日本社会。中外学術雑誌に20余本の学術論文を発表した。学術専著『清廷制憲と明治日本』を出版し、英訳漢、日訳漢訳著を多数有する。現在は、第二次世界大戦における日本の孤児研究に取り組んでいます。 |
崔学森教授よりレジメ(下記のとおり)を作成して頂きました。レジメの内容に沿ってお話をして頂きました。
崔学森
中国残留孤児はどのようにして生まれたか
一、帝国主義への突入と対外拡張 1. 明治維新後の帝国仲間入り 2. アジアをリードしようとする日本と人種差別 3. 総力戦の性格を帯びた侵略戦争 4. ロシアとの利益衝突 二、満蒙経営と満蒙開拓 1. 日露戦争後の満蒙経営 2. 満州国と満蒙開拓 (1)「五族協和」の虚妄 (2)中国人の土の略奪者としての満蒙開拓民 (3)ソ連侵攻を防ぐ防波堤としての満蒙開拓民 三、ソ連の中国東北出兵と日本軍の南下政策 1. 日蘇条約を破ったソ連侵攻 2. 現地召集による壮年男子の不在 3. 関東軍主力の南下 4. 長距離の逃避行 5. 混乱下における中国人の復讐 四、中国の伝統家族文化による命への尊重 1. 自殺を否定する孝の文化 2. 血縁関係を大切にする家族観 3. 東北における流民文化 五、帰国を遅らせた日中関係 1. 国民党政権と共産党政権との間の葛藤に影響された日中関係 2. 「文化大革命」などの影響 3. 日本政府の棄民政策 六、まとめ 1. 残留孤児は侵略戦争の後遺症である 2. 残留孤児が生まれた主な方式は取り残された満蒙開拓団の子供である 3. 庶民は戦争の被害者である 4. 権力を持つ国家への警戒は平和につながる道である 5. 平和は権力者によるものではなく、我々庶民自身によるものである 6. 歴史を研究するには恨みを銘記するのではなく、それを乗り越えた相互理解と友好交流を通して、戦争を防ぐことにある |
レジメの最後の六「まとめ」部分について、崔学森教授は、「中国に取り残された残留孤児は、戦時中における日本の国策の被害者であったと同時に、戦後においても日本政府の政策や日中関係に左右されて帰国を遅らせました。
そのため、日本社会への適応など大きな問題が発生しました。侵略戦争の被害者だった残留孤児たちを二度と生まないように平和友好交流、特に民間の友好交流を、志を同じくする仲間と手をつないで使命を自覚して遂行しなければなりません。権力を持つ国に対して、いつも警戒しながら戦う必要があります。」と締めくくりました。
NPO法人大海の会の会員は、中国帰国者一世・二世が多く、正に、大海の会にふさわしい記念講演内容であったと感謝しております。改めて、崔学森教授にお礼申し上げます。
大海の会は、今回の記念講演を始めとして、引き続き、中国残留邦人の歴史と経験を風化させず、次の世代に伝えて行くと言う取組みを進めてまいります。
崔学森教授は、6月末に中国大連に帰国されますが、一層ご活躍されることをお祈り申し上げます。ありがとうございました。